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内容は密室殺人、いわゆる不可能犯罪モノ。最もハードルの高いジャンルにおいて、理系ミステリーとか言ってるが、突っ込みどころが多すぎて辟易した。変な小細工しなければ良いのだが。この作品を手放しで褒めてる人はどういう脳の構造をしているのだろうか。下に要点をまとめるので、物語の破綻度合いを理解してもらいたい。

推理小説としてはちょっとどうかと思うが、小説としては面白いところもあるので、この人の作品はあと2~3冊は読んでみようと思う。


以下ネタバレ。




■犯行内容
真賀田博士という女性天才プログラマが少女時代に殺人を犯し、その廉で幽閉されている研究所での出来事。博士は24H監視付きの部屋に監禁されており、15年間外に出ていない。


犯行は博士が殺されているように偽装し、バレないうちに博士本人が逃亡する、といったもの。偽装死体は博士の娘で、手足が切断された状態で発見される。密室に入るとき妊娠して入り、密室内で育て、出たのが15年後というタイムスパンの長いトリック。


共犯者は研究所の所長で、事件後早々に博士に殺される。


■犯行目的
通常、推理小説の犯行目的は殺人だ。しかしこの作品は違う。まずそこが間違っている。

複雑なトリックというのは、殺人という絶対悪を犯すからこそ必要なのだ。何故なら殺人は絶対悪であり、目的が他にあるならトリックの為の労力を他に回せば良いのだ。命以外は金で買えるし、仮に捕まってもブタ箱に5年も居れば良いのだ。

だからこそ推理小説は殺人を取り扱うのではないのか!


つーか、そもそも少年犯罪から15年も経過してるのだから既に刑期満了ではないのかね。


■犯行動機
ない。怨恨による殺害でなく、逃走の為の殺害。道具として死体が欲しかったので殺した、そんな感じ。


■トリック
穴だらけだ。2つトリックがある。密室へ入る方法と出る方法だ。

入る方はちょっと思いつかなかった。共犯は必要で、所長が臭いと思っていた。なので途中、博士が生きている風の展開になったときには双子トリックだと思った。しかし、妊娠して密室に入り、子育てをしてまで身代わりを立てている。密室外部に所長なんていう立場の共犯が居る時点で密室は崩壊しているわけだが、にもかかわらず厳格に密室を守る以上、出るほうのトリックも期待していたのだが。


出る方はこれまた凝ってる。監視カメラの録画記録媒体がHDDで、1分単位のファイル記録である。これのファイル名とタイムスタンプが兼用。1分消去するのに時計をずらして上書きするようにした。時計はタイマであるときが来たら1分進むようになっている。監視カメラ対策はこれでよし。これ自体は中々面白いトリックだ。


だが問題が多すぎる。


1.人が見てたらトリックの意味がない。そしてトリックはタイマ起動なので必ず決まった時間に働いてしまう。にもかかわらず、目撃者の排除が確実とは言えない。偶然見てる人が居なかっただけだ。

2.トリックは凝ってはいるが、ソースを洗って、それを見つけた者が一人殺されている。博士一人で開発したわけだし、その部分だけソース公開しなければ良いんじゃないのか?

3.別に1分だけ消すとかしなくても録画自体を止めちまえば良いんじゃないか?その時間に所内のシステムがダウンしたのだから、録画が止まっていても不自然ではあるまい。

4.そもそもHDD録画は96年当時でやっと使えるかなっていうシステムである。7年間システムの入れ替え無しにそれが動いていたっていう前提が有り得な過ぎる。

5.システムの入れ替え自体は博士がやりたければいつでもできた環境にあって、何で7年前から仕込んでおく必要がある?


トリックの骨子は悪くないと思うが、コンピュータに関しては目的に対し、解決方法が多すぎる。別にこれじゃなくていいんじゃん?ってトリックになっている。


あと、所長の殺され方に無理がありすぎ。刺された後も犯人を庇って元気なフリしてたって。それを使っちゃいかんな。


■全体の考察
密室殺人の意義は通常2通りしかない。


1.自殺偽装
2.操作の撹乱による逃亡時間稼ぎ


明らかな他殺死体が出てきた時点で自殺偽装は有り得ない。
目的は逃亡であり、時間稼ぎだ。トリックには共犯者が必須だし、実際に居るし、別に殺人とか余計なことしなくても普通に逃亡できたと思うが。


密室殺人の密室度合いだが、密室の住人は元々殺人犯なので監視付き。窓が無いコンクリートの部屋。扉は1つ。24h監視カメラあり。24h警備あり。

トリックは評価が分かれるだろうか。入る方はまあ良いとして、出す方がちょっとひどい。


そして、偽装は司法解剖すれば年齢で100%バレるので、時間稼ぎにしかならない。だからコンピュータにどんな仕掛けをしても、バレても、全然構わない。実際バレてるし。
カウンタフルでFFFFになったら起動とか、んな細かいことを言わなくても、ソースを一部非公開にしておけば解析に時間が掛かる。その方が確実じゃないか?


あと、細かいところ。


96年当時、52人もコンピュータ屋が居る研究所である。誰かアマチュア無線くらい持ってるよ。また96年当時、学生で携帯持ってた奴は普通に居た。理系の学生は結構物好きなので、96年の発表時にはかなりの普及率だったと思う。だから日間賀島程度で隔絶された孤島にはなりえない。天才なのだからミノフスキー粒子を戦闘濃度散布とか、そういう設定にしておけば良かったのに。


それから業務用無線機を工具もなしに使えなくなるまで壊すなんてかなり無理。蹴っ飛ばしたりハンマーで叩くぐらいじゃ壊れないように作っている。外ブタを空けて基板割らなければすぐに直せる。私は業務用無線を作っていた。業務用をナメんなよ。


■総評
所謂新本格というのは動機が不明確すぎる。そしてトリック中心なのに、そこに大穴が開いているのでは推理小説として評価しようが無い。

しかしそう思わなければ面白く読める。キャラクタ設定と流れが良いのだろう。ミステリー風味の学園ラブコメと思えば悪くない。